令和7年度卒業設計 松遙賞(最優秀賞・優秀賞)

令和7年度卒業設計 松遙賞(最優秀賞) 

■最優秀賞

作品名 硬から柔へ
受賞者 加藤 千晶
作品講評 九州大学工学部建築学科では「環境や構造、材料などの工学的なエビデンスに基づく建築や都市の設計」を教育目標の1つとしており、近年はBeCATという設計教育プロジェクトにも力を入れています。学部の卒業研究は「卒業論文のみ」か「卒業論文と卒業設計」を選択できますが、この講評を書いている山口の研究室(構造系)の学生のうち「卒業論文と卒業設計」を選択したのは過去25年間で加藤さんがわずか3人目であり、構造系の学生による卒業設計最優秀賞の受賞は更に稀な快挙です。
加藤さんは卒業論文と卒業設計で、一貫して「月に有人活動施設をつくる」という「自ら持ち込んだテーマ」に取り組みました。月面は真空で、極端な温度差、宇宙放射線、隕石の飛来などがあり、生命には極めて過酷な環境です。また、地球からの物品輸送には重さ1kgあたり1億円かかると言われています。加藤さんは月に建設する有人活動施設の立地・構造・構法・材料・施工方法を卒業論文で検討し、最もネックとなる「施設内外の気圧差に耐え、気密性を確保できる軽量な構造体」の構築方法を考案して、その構造体の内圧載荷実験を行いました。考案した「帯状の繊維シートを巻き付けて気圧差に耐える、形状の自由度が高い構造体を作る方法」を更に展開したのが本作品です。加藤さんは単なる夢物語としての「宇宙での建築」に留まらず、「工学的なエビデンスに基づく建築」を志向する姿勢が高く評価され、最優秀賞の受賞に至りました。

 

■優秀賞

作品名 めぐり還って道すがら、それから。
受賞者 碓井 和佳奈
作品講評 本作は、香川県三豊市・久保谷地区という50世帯の小さな農村集落において、祭事橋板という固有の物質的循環を軸に、インフラ・ランドスケープ・共同体活動の三層を同時に再編しようとした意欲的な卒業設計である。
 高潮対策と海への眺望遮断という二重課題を抱えた防波堤を、臨時駅ホームの地形化によって代替しながら砂浜を回復させ、祭事の参道性と日常の浜辺空間を連続させる操作は、インフラと景観と場所の記憶を一体的に扱おうとした設計的思考の深さを示している。構法面では、30×250×2000mmという橋板の単一モジュールを挟み込み架構へと展開し、修繕・増改築・セルフビルドの連鎖を内包した時間軸設計を成立させている。この点は構造デザイン賞の評価とも重なるところであり、素材の制約を設計の論理へと転化した誠実さが光る。
 一方で課題として指摘したいのは、Phase1の神輿蔵・駅舎、Phase2の学童保育・桟敷席、Phase3の商店・休憩所という3棟の配置と意匠の全体的な一貫性が捉えにくい点である。橋板架構という共通の構法原理は提示されているものの、3棟が海・参道・防波堤・臨時駅という複数の空間軸に対してどう応答し、集落の場としてひとつの風景を結んでいるかが十分に伝わらない。個々のフェーズの内部論理が丁寧に描かれているだけに、配置計画の構想をより明示的に示すことができれば、作品全体の空間的な説得力はさらに増したであろう。
 しかし本提案の根幹にある問いは力強い。「晴レ」と「褻」の往還という時間的構造を、橋板の往来・蓄積・古材化・架構化というモノの循環と重ね合わせ、祭事の刹那的な共同体を日常の連続的な場へと解凍しようとした構想の誠実さと、固有の場所性への深い読み込みは、優秀賞・構造デザイン賞の双方にふさわしい卒業設計であった。